四季のひとさじとリリエンベルグの思い出

まだ食べてもいないどころか買ってもいないのに落涙していまいました。この春、本州を縦断する旅の途中で立ち寄った、神奈川県川崎市のウィーン菓子工房リリエンベルグでの出来事です。

敷地全体がまるでおとぎ話のような外観に胸をときめかせながら店内へ足を踏み入れると、窓ごしに見渡せる素敵な中庭を通って、職人さんたちが工房からお店へとできたてのお菓子を運んでくる様子が見えます。駐車場の誘導係さん、販売員さん、そこで働く全ての人が穏やかな笑みを浮かべながら楽しそうに親切に接してくださり、やらされている、働かされているような印象は皆無。超人気店なのでお忙しいでしょうに、穏やかで落ち着いた雰囲気で満ち溢れ、いつまでもそこにいたいような心地になります。そして、ディスプレイに並べられたお菓子たちの美しさたるや。もう涙腺の我慢は限界です。感激冷めやらぬままケーキを口へ運んだその時には、もう為すすべなし。言葉を失い、ただただ恍惚とそのおいしさに酔いしれるばかり。

楽しみにしていたのはケーキばかりではなく、コンフィチュールも。旅から戻って数日が過ぎたある朝、瓶の封を解いた瞬間鼻をくすぐる優しい芳香にはぁと感嘆のため息をつき、仕上がりの美しさ、スプーンから躊躇いがちにゆっくりトロ〜っと落ちていくテクスチャに期待が高まり、食べたその刹那に期待は確信へと変わり、玲奈と頷き合いました。

ジャムはこうでなくては。

リリエンベルグのコンフィチュール(ジャム)のおいしさは、食べる人に過度の緊張や興奮を求めるものではなく、店舗に足を運んだあの時の印象そのままに、やさしく穏やかで、日々の暮らしをこれと共に過ごしたいと思わせてくれる心地よいものです。まるで、見た目の派手さや懲ったデザイン性のようなものは無いけれど、生地も仕立てもよく、毎日身につけていても飽きず、それでいてちょっと特別な気分にしてくれる衣服のような。そして四季の巡りに逆らわず、旬のエネルギーに満ち溢れたその瞬間の果実を少しづつ炊き上げ、無理な作り置きはなさっていません。一期一会のおいしい刹那が、瓶ひとつひとつに詰まっています。

料理家として生きていく、その名刺代わりにと始めた四季のひとさじですが、やるからにはこうありたいという玲奈の職人としての矜持があり、その指標のひとつがリリエンベルグのコンフィチュール。

背負子+88きつね森直売所をオープンしてから、初めて四季のひとさじが入荷しました。ようやっと始められたかという安堵と共に、身が引き締まる思いもあります。リリエンベルグのようであれるかという問いへの答え足り得ているだろうか。

最終的にそれを決めるのはお召し上がりになるお客様です。いろいろと御託を並べていますが、これに左右されずご判断いただけたらと願います。

ただもうひとこと言わせてもらうなら、内輪褒めのようで恐縮ですが、私にとって玲奈の作るジャムはリリエンベルグの仕事に比肩し得ないまでも、そうかけ離れたものでもありません。少なくとも身近で手に入るもので、彼女のジャムよりおいしいと感じるものはないし、いつも最初に味見させてもらえるこの立場を幸福であり光栄と思っています。

蛇足ではありますが、あともうひとつ。旬のよく熟れた果実そのものと同じく、ジャムも出来立てがもっともおいしい時です。大切に思っていただけるのは嬉しいのですが、ヴィンテージもののお酒のコレクションのようにいつまでも棚に並べておかず、できるだけお早めにお召し上がりくださいね。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中