一冊一皿二週目 – 誠実亭の賄い丼

「まかない」という言葉に触れるだけでくつろいだ気持ちになるのは、それが単に休息を意味するだけでなく、ケレン味のなさも理由の一つではないかと思う。ケレン味と言ってしまうと誤解を生んでしまいそうだが、料理屋の料理とはよそ行き料理であり、味はもちろんのこと見た目にまで心を砕いたエンターテイメントであるという意味合いと、ここでは考えて欲しい。

世の中の昼食時は、食堂やレストランにとっては稼ぎどき。それが過ぎれば今度は夜や翌日の仕込みが待っている。そのわずかな隙間を縫って掻っ込む賄い飯。食材はありあわせ。お客に供する料理と比べたら、見た目は随分と雑になる。けれど味は別だ。そもそも食べること、おいしいものが好きで料理屋にいる人間が、賄いと言えどもそう簡単に粗末にできるはずがないのだ。

手を抜くことと粗末にすることは、似て非なるものだ。賄い飯における手抜きとは、虚飾を拝することであり、お客のために費やすべき貴重な時間を無駄にせず、短時間でしっかりと満足感を得るための工夫でもある。けして侮られたものではない。賄いにこそ料理屋の本質が現れると見る向きもあるほどだ。

一冊一皿二週目の料理は‘誠実亭の賄い丼’。武田百合子著『ことばの食卓』収録の一編、‘誠実亭’にその様子が描かれている。

“たいてい毎日、白滝とちぎれた焼豆腐とすきやきのおつゆがかかった丼御飯です。割り箸をパッチンと割って、勢いよく黙々と、残さずに食べます。”

料理屋の舞台裏では、脇役に甘んじることが多い食材が主役に躍り出る。一心不乱に平らげられる食べられる丼と、その周りにある情景が浮かび上がってくる。


‘誠実亭の賄い丼’ が収録された『ことばの食卓』は、BOOK NERD でお手にとってご覧いただけます。

一冊一皿 について、詳しくはこちらをご覧ください。

背負子 店主

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